あなたが昨日部下を𠮟りつけたのは、本当にあなたがやってしまったことだったの?
あなたが今日嫌だなあと思ったのは、本当にあなたが思ったことなのでしょうか?
実はあなたも気づいていない、あなたの中のもう一人のあなた、腸内細菌叢にあやつられているだけなのかもしれません。
今年も敬老の日に100歳以上人口が発表されました。全国で9万2139人、新潟県は2342人。人口10万人当たりに換算すると新潟県は109人で全国12位でした。島根が11年連続最多で155人、次いで高知146人、鳥取126人の順。最も少なかったは埼玉の45人だそうです。
私は消化器内科医として、主に大腸にかかわる仕事をしてきました。前回の富所先生からも胃腸についてたくさんのことを教えていただきました。今、われわれの大きな関心事の一つは健康・疾患と腸内細菌叢との関係についてです。老化との関係についても多くの研究が精力的に行われています。そこで今回は腸内細菌叢の最近の話題をいくつかご紹介したいと思います。
済生会新潟病院 院長 本間 照
1000種もの細菌がすむ腸内
ヒトの腸の中には1000種類100兆個という膨大な細菌がすんでおり、人間と共生関係にあります。偏った食生活やストレス・睡眠不足などによって菌数の減少のほか、多様性や構成菌種の異常をきたすことがあり、これをディスバイオーシスと呼びます。ディスバイオーシスは体調不良を引き起こしさまざまな疾患に関与していることが明らかになってきました。
「二次胆汁酸」が重症化抑制
腸内細菌は腸内に流れ込んできた食物や分泌物を化学的に変化させ様々な物質を作り出します。腸内細菌によって代謝される物質の一つに胆汁酸があります。胆汁酸は、肝臓で作られる胆汁の主成分で、腸管に排泄され、腸内細菌によって胆汁酸代謝物(二次胆汁酸)になります。二次胆汁酸はこれまで、細胞毒性があり発がんにも関与する悪者と考えられてきました。しかし近年、生体にとって役に立つ物質でもあると見直されています。
100歳以上の人から得られた便の二次胆汁酸の中に、特に多く含まれる物質を分析した結果、病原菌に対して強い抗菌作用を持つ物質が発見されました。この物質は感染症の原因にならない常在菌に対しては抗菌作用を発揮しません。この物質を産生する腸内細菌も同定されました。100歳以上の人たちはこうした菌を自分の腸内に飼うことにより長寿となっているのかもしれません。
風邪をひいて熱がでるのは体の防御反応、という話を聞いたことがあると思います。しかしそのメカニズムについて詳しいことは分かっていませんでした。2023年7月、発熱がウイルス性肺炎の重症化を抑制するという報告がありました。体温が38℃以上になると腸内細菌叢が活性化され、二次胆汁酸の産生が増加、この二次胆汁酸がインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスの増殖と炎症反応を抑制し、重症化を抑えることがわかったのです。高齢者では筋肉量の低下などによる基礎体温の低下が重症化の一因とも想定されています。
解明進む腸内細菌叢の役割
筋肉の維持のみならず、運動は病気予防にも効果的ですが、腸内細菌が減ったマウスでは、運動意欲が低下することが報告されました。脳と腸がお互いに強く影響しあう「脳腸相関」に腸内細菌叢は深く関わっています。
腸内細菌叢の役割が次々と解明されてきています。これらのデータを健康長寿にどう活かしていくのかがこれからの課題です。私共の病院の予防医療センターでも、企業と連携し腸内細菌叢の分析を行っております。ご興味をお持ちの方は是非お声がけください。
話が腸から脳に繋がった所で、次は私が尊敬する長岡赤十字病院脳神経内科の藤田信也先生にバトンタッチしたいと思います。
(2023.10.11掲載)
当院B棟2階には病院併設の予防医療センターがあり、精度の高い”けんしん”を提供しています。
ほんま・てらす
弥彦村出身。1984年新潟大学医学部卒。1995年から新潟大学医学部勤務。2005年県立新発田病院勤務。2010年済生会新潟第二病院に勤務。2021年から病院長。専門は消化器内科。
次回は本間先生の高校時代からの友人でもある長岡赤十字病院の藤田信也副院長を予定しています。
協力:株式会社メディレボ
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