フランス発祥のケア技術、ユマニチュードが注目を集めている。認定インストラクターの金沢小百合さん(エクサウィザーズ所属)が、その理念や技法を紹介した。
ユマニチュード認定インストラクター
(株)エクサウィザーズ所属
金沢 小百合さん
かなざわ・さゆり 1979年、北海道生まれ。2001年、国立西札幌病院附属看護学校(現北海道医療センター附属札幌看護学校)卒。同年、国立国際医療センター(現国際医療研究センター)に入職。呼吸器内科副看護師長、特別個室病棟副看護師長などを歴任。18年4月から現職。
よりよい人間関係築きケア
私たちは記憶を基に生活している。視覚や聴覚などの五感と身体の中から感じる深部感覚によって膨大な情報から脳は瞬時に判断し、必要な情報を記憶する。
■思い起こして行動
情報はまず「短期記憶」に入るが、重要でないものはすぐに忘れる。電話番号や歴史の年号などは繰り返し唱えることで記憶を固め、情報は「長期記憶」として保存される。学んだ知識である「意味記憶」、思い出の「エピソード記憶」、車の運転など身体で覚えた動作の「手続き記憶」、心を揺さぶられた時の「感情記憶」に分かれ、これらの記憶を思い起こして行動している。
記憶に障害が起きると、今までの生活に支障を来す。だからこそ、「認知症の方は、不安な状態にある」ことを理解してほしい。
アルツハイマー型認知症では、短期記憶の障害によって、新しい情報を記憶として保存することが難しい。「意味記憶」に不具合が起こると、トマトにかかったパセリを正しく認識できずに食べられなくなったり、ペンを歯ブラシと誤認して口に入れたりすることもある。
新しい情報を覚えることは難しいが、過去の思い出やピアノ演奏ができるといった「エピソード記憶」や「手続き記憶」は思い出すことができる。また感情記憶は最後まで機能する。
まずは私たちが記憶することの仕組みや認知症について正しく理解することが大切なのである。ケアでは、幸せだった記憶、つまり不安の軽減には感情の記憶を使い、寄り添うことができる。
■メッセージ届ける
ケアの哲学であるユマニチュードは40年ほど前、フランスの体育学教師2人が作った。病院や介護施設のベッドで寝たきりのまま動かない人の現状に驚いた2人は、自分らしく生きる「自律」と自分の力を発揮する「自立」を呼び掛けた。
ケアが必要な人に「あなたは大切な存在である」というメッセージを、相手が理解できる形で届けることが重要である。ユマニチュードでは出産を第1の誕生と捉える。人として生まれてきた後に「見る」「話す」「触れる」「立つ」という四つの柱で、人間の仲間に迎え入れられることを第2の誕生という。
これらの四つの柱を届けるためには、よりよい人間関係を築く必要があり、出会いからケアが終了するまでを一連の流れで行う。例えば、入室の際は、3回ノックして返事を待つ。「会いたかったよ」などと呼び掛けながら、よい感情で過ごしてもらう。愛情や優しさを通し、自分らしさを取り戻す。それが第3の誕生だ。
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